親の介護で学ぶこと

しばらくご無沙汰していましたが、父の介護も現在進行中です。
もうすぐ1年、介護認定の更新もありましたが、要介護3を継続です。

介護状況に大きく変わりはありませんが、少し意欲が感じられるようになりました。
すると、急に外出してみたり、転倒したり、救急車にお世話になったり、色々トラブルも起こります。
それでも、その都度、知恵と工夫で何とか過ごせているようです。

困ったことをどう前向きに考えるかで、介護の捉え方は大きく変わるように思います。
トラブル時はそれどころではないときもありますが、一歩引いた目で見られると良いのかもしれません。
どっぷりつかり過ぎない、良い加減、レスパイトも大事だと思います。
(仕事を辞めて介護に専念なんかも止めた方が良いと思います。)

そんな親の介護を通して、良かったと思うことをあげてみます。


1) 臨機応変になる

上にも書きましたが、困った事が色々起こります。
今まで出来ていたことが出来なくなったりもします。
体調が急変することもありました。
(たいてい夜間や休日だったりします…)

ある程度予測できることもありますが、そうはいかないことも多いものです。
決められたことをこなすだけでは、介護はしんどいものになります。
思い通りにいかないことも多いからです。(育児も同じですね)
それを苦にしない為には、普段から臨機応変な考えを持つ必要がありますね。
少々のトラブルには動じなくなりました。

あと、意外と直感が当たります。
長く見ていると分かることがあります。
鍼灸院の患者さんでも同じく、定期的に長く通って頂いているとその変化に気付くことがあります。
こういう感覚も、普段から養われていくんだと思います。
言葉では言い表せない感覚(第6感?)も研ぎ澄まされていくように思います。

 

2) 今を大切にできる

元気な体や命には限りがあることを感じます。
若いとき、元気なときに、病や死を意識することはあまりありません。
でも、それらはいつやってくるか分かりません。
将来の為に、老後に備えていても、老後が来ないこともあります。

大きな災害や戦争のときも意識できますが、身近でなかったり、時間が経つと忘れてしまいます。
身近な家族を介護や看病をしていると、それが「いつか」や「他人事」では無くなり、
「今」の「自分事」になります。

介護の為に時間は取られますが、そのお陰で大事なことに時間を割くようになりました。
今できることを、今することも大事だと思うようになります。

 

3) 今後の人生を考える

親の老いを見ることで、自分もいつかこうなるんだと想像します。
もちろん、育ってきた環境や時代が異なるので、同じようにはいかないこともあるでしょう。
けど、血の繋がる親であれば、遺伝する部分もあります。
性格も似ている所を感じます。
良い所を引き継ぎたいですが、衰えていく時は、どちらかと言うと悪い所に目がいってしまうもので…

そうなら無いように気をつけます。
望みを相手に伝えることは大事に思います。
老いたときに心身ともに穏やかに過ごす為には、若いときの過ごし方や、人とのつながりも大切に思います。

 

親の介護を通して、そんなことを学ばせてもらっています。

 

(院)

嚥下障害による食事の変化

父の以前の生活から大きく変わったのが、食事です。
退院してきた時は食欲がなく、食べたい物も思いつかない、といった状態でした。
体重も入院前から10kg以上やせてしまいました。

脳梗塞の影響で嚥下に必要な筋肉がうまく動かせなくなったことと、長い入院であまり会話できず声も出さずにいたことで咽周りの筋肉が衰え、食べ物を飲み込む力が落ちました。

飲み込むのが難しいので食事に時間がかかり、嚙んだり、飲み込んだりすることに疲れてしまいます。
思い通りに動かせないのか、口の中を噛んでしまうこともありました。

嚥下障害で特に困ったのは、飲み物です。
サラサラした水分はすぐに咽に流れ込んでしまうので、自分のタイミングで飲み込むことができません。
飲むとむせてしまいます。
果汁の多い果物もジュワッと水分が出てくるのでむせます。
飲み込みがうまくできないと、食べ物が気管に入り、気管から痰がたくさん分泌されます。
痰は気管に入る異物を出すために分泌されます。
飲み物でむせる、痰がたくさん出てくることは、嚥下力が落ちているサインです。
父の場合、常に痰が出ていて、食べる度にむせる状態でした。

飲み込むことが難しい時は、食べ物にトロミをつけると飲み込みやすくなります。
言語聴覚士さんにより、飲み込む様子を確認しながら、安全に飲み込めるトロミの濃さや、食べられるものを探す事が続きました。
とにかく食べられるものを食べて、体力をつけることに専念することになりました。

まず、濃いめのトロミが必要と判断されました。
当初は、お茶にとろみをつけて出していましたが、父はほとんど飲んでくれません。
とろみ付きのお茶はまずいのだそうです。
実際にそれを飲んでみると、美味しくありません。
(家族や患者さん、利用者さんにして貰うことは、自分も体験してみると良いです。)

例え飲み込みが安全だとしても、飲まなくなれば、脱水の心配があります。
お茶はあきらめて、水分補給ゼリーや栄養補給ゼリーに切り替えると飲んでくれるようになりました。

さらに食事は、柔らかいとか、細かく切れば良いというわけでもありません。
粒状のカスが咽のポケット(梨状陥凹や喉頭蓋谷)に残れば(咽頭残留)、誤嚥性肺炎の原因になることもあります。
最後に水分で流すことも有効のようですが1)、父はよくむせていたので、ペースト状の食事が勧められました。
でもペースト状のおかずは、あまり食が進まないようでした。
(見た目もあまりよろしくありません…)

代わりに、高栄養のゼリーや豆腐などの介護食なら食べやすいようで、自分から食べてくれるようになりました。
高カロリーで溶けやすいチョコレートも食べやすいようでよく食べてくれました。
好んで食べるものは、不思議と むせにくいこともあるようです。

介護食品を取り扱うサイトには、嚥下力の程度に合わせた、飲み込みやすく、栄養価の高い食品が沢山あります。
ネットで注文するとすぐに届いて、忙しい時も大変助かりました。

先ほどの「トロミ剤」も多種多様で、進化もしています。
家庭にある片栗粉やデンプン系のトロミ剤だと、唾液で消化されて食べるうちにサラサラになってしまいます。
最近主流のキサンタンガム系のトロミ剤なら、粘度が維持され、味や安定性も改善されています。2)
介護用に作られ工夫された食品が沢山あることに驚きました。

そんな飲み込みやすい高栄養の食事のおかげで、父も少し体重が増え、意欲も出てきました。
すると次に課題となったのは、口腔内環境です。

噛まずに飲めるものばかりだと唾液の分泌が悪くなります。
唾液は、口内の抗菌作用、食べ物を飲み込みやすくする作用があります。
また、唾液は食べ物と混ざる事で、舌の味蕾に味覚を伝える役割も担っています。
唾液が出にくくなっているのか、父の味覚も以前とは変わっているようです。

唾液が出やすくなるよう、最近はカスが残りにくいスナック菓子で噛む練習をしています。
咀嚼や嚥下に必要な筋肉は使うことで復活していきます。 
口から食べることを諦めずにリハビリを続けることが大切です。

ただ、咀嚼や嚥下が難しい時は、食事に時間もかかり、顎や頬、咽や首の筋肉に負担がかかって、こわばりが出ています。
鍼灸で顔周りの筋肉をほぐすことで、動きやすくなり、また唾液の分泌も促されます。
唾液分泌に関する鍼灸の研究もいくつかあります。
多くが経穴への治療ですが、唾液腺のある顔面部への局所刺激が、他の部位よりも有効であったことも報告されています。
反応点治療でも、頭部、特に咀嚼筋(側頭筋や咬筋)、唾液腺付近の反応点に、アプローチしていきます。

父は、言語聴覚士さんによるリハビリ、私たちによる鍼灸など、いくつかの介入により、嚥下状態や発声状態も改善してきているようです。

だんだんに父の状態がわかってきて、生活のリズムが整ってきています。
生きていくために必要不可欠で、生きがいにもなる「食べること」。

引き続き、見守っていきたいと思います。

(副・院)

 

1)咽頭残留とフィニッシュ嚥下

2)とろみ調整食品

3)シェーグレン症候群(SjS)患者の乾燥症状に対する鍼治療効果

レスパイト

父の退院から1ヶ月が経ちます。
自宅での生活にも慣れてきて、必要なモノやことが分かってきました。
退院直後は、次々と起こる事態に対応しないといけないので、目の前のことでいっぱいでした。
それが、少し時間が経って落ち着いてくると、その大変さや先の不安も感じるようになります。
これまでの経験だと、災害後や出産後、何か初めての大きな出来事後の心情の変化にも似ているかもしれません。

そんな時に大切にしたいのが「レスパイト」。
訪問介護の仕事を始めた頃に教えてもらいました。
そして、その必要性も。

「レスパイト」(Respite)とは、英語で「小休止」「休息」「息抜き」といった意味の言葉です。
「レスパイトケア」という言葉もあり、

 介護する人に提供される計画的、もしくは緊急の、一時的なケアである。
 言い換えれば、「ケアする人のケア」である。1)

とあります。

介護の場合、その手段として、介護サービスの利用があります。
デイサービス(通所介護)2)や、ショートステイ(短期入所生活介護)3)は、利用者(介護を受ける人)の支援やリハビリにもなりますが、介護者(介護をする人)の負担を軽減する目的もあります。

また、鍼灸院に通うことが「レスパイト」になっている方もおられます。
介護の疲れを取りに来られたり、介護を受ける人も来られたり、一緒に来られたり。
在宅介護で一人で通うことが難しい人には、私たちが自宅に伺って一緒に治療させて貰ったりもしています。
介護の大変さを知って、ますますその重要性も感じます。

介護をする人の健康をまもるQ&A
介護する人の健康をまもるQ&A
(こんな書籍もあります)

他に、私にとっては、仕事をしている時間もレスパイトになっています。
仕事が忙しいことで、気が紛れることもあります。
介護のことから少し離れられると良いのでしょう。
同じ屋根の下でずっと介護を続けられる人は本当に大変だと思います。

ストレスも、ずっと続くと大変ですが、少し途切れるだけで、助かることもあります。
また、少し離れて客観的に見ることで、見えてくることもあります。
「育児」でも同じようなことが言えるかもしれません。

 

最近、介護が大変だという内容の投稿になっていますが、介護ができて良いこと、嬉しいこともあります。

もう少し余裕が出来たら、そんな内容の記事を書きたいと思います。

(院)

1) レスパイトケア

2) デイサービス

3) ショートステイ

介護サービスを受けるには

父が退院してあっという間の1週間でした。
その割にはいつもよりブログが書けています。
見守りや待機で時間ができたのと、家族についてだからですね。
患者さんや利用者さんのことは守秘義務があり詳しく書けませんが、家族のことなら具体的にも書けます。

この1週間、ケアマネジャー、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護士、鍼灸師(私達)の誰かしらが毎日入ってくださっています。
特に、退院後の2週間は、基本的な制限に縛られず「医療保険」による訪問看護が利用できます。
「特別訪問看護指示書」といって、主治医が頻繁な回数の訪問看護が必要と認めると交付されます。
(理学療法なども含まれます1)。)

では、「介護保険」を利用した、介護サービスについてはどうでしょう?
今すぐ介護を受けたい!と言って、すぐに利用できるわけではありません。
公的な介護サービスを受けるには、申請手続きが必要です。
(自費ならすぐ利用できるサービスもあります。)

その流れは、こちらをご参考ください。

芦屋市サイト
>介護保険
手続き方法(サービス利用までの流れ)
https://www.city.ashiya.lg.jp/kaigo/tetsuzuki.html

私の父は、入院前は独居で自活できていて、介護サービスも利用していませんでした。
でも退院後は介護が必要だろうと判断し、入院中に認定調査の申請を行いました。
病院で、認定(訪問)調査が行われ、一次判定(コンピューター)、二次判定(介護認定審査会)を経て、認定結果が通知されます。
その結果で、要支援1~2・要介護1~5のいずれかの判定がおりれば、介護保険でのサービスを利用することができます。
申請から通知まで、約30日程度かかりますし、かかりました。

在宅サービスの場合は、認定結果が出る前から生活が始まることもあるので、通知前に暫定的にサービスを利用することもできます。

その結果を待っている間に、施設を探したり、在宅であれば住環境を整えたりもします。
ポータブルトイレのように購入しなければいけないものや、歩行器、手すりなど、レンタルできるものもあります。
ケアマネージャーや福祉用具に詳しい方と相談されると良いでしょう。

病院での父の状態が詳しく分からなかったので、いくつか選択肢を用意しながら、実際の生活をしながら、器具や設備も取捨選択していくことになりました。
ここでも、やはり臨機応変に、その場に応じて対応していくことになります。

認定調査の申請をして、結果が出るまでには、時間もかかります。
その間に、家族や本人の希望を、すり合わせていきました。

徐々に介護が必要となれば、徐々に準備をすれば良いでしょう。
けど、病気などの入院をきっかけに介護が必要となれば、これまでの生活から大きく変わることもあります。
高齢になると、入院をきっかけに、急にできないことが増えることもあります。
介護が必要と感じたら、早めに申請するのが良いでしょう。

あと、はじめのチームに鍼灸師を含みましたが、一般的には、鍼灸師は入っていません。
鍼灸治療は、「介護保険」内では利用できません。
医師の診断があれば一部「医療保険」を利用することはできます。
但し対象疾患が限られているので、全身治療でもしようと思うと、自費になります。

鍼灸が医療として認められていない現状もあります。
実際、私自身もどんな鍼灸師にでもお願いしたいとは思いません。
鍼灸治療が医療として認められるには、鍼灸師の質を上げていくことは大きな課題としてあります。

(院)

1)全国訪問看護事業協会
「訪問看護事業所における看護職員と理学療法士等のより良い連携のための手引き」
https://www.zenhokan.or.jp/new/new1564/

施設か在宅か

いざ「介護」が必要になったときの選択肢として、大きく分けて二つあります。
施設」(特養、老健、グループホームなど)で見てもらうか、「自宅」で訪問介護(ヘルパー)に来て貰うか。
どちらが良いかは、介護を受ける人と、家族や周りの環境によります。

私の父の場合は、入院直後から「せん妄」症状が出ました。
高齢で環境の変化が大きいと、よくあることだそうです。
入院時に、病院からその説明冊子まで頂きました。

せん妄とは、
「時間や場所が急にわからなくなる見当識障害から始まる場合が多く、注意力や思考力が低下して様々な症状を引き起こします。」1)

治療と対策としては、
「せん妄が起きている原因に対しての処置・治療を行い、患者が落ちつき、安心できる環境 を整えます。ほとんどの症例で入院治療を行います。」1)

せん妄は、中枢症状であり、なぜそうなるかは神経伝達物質のアンバランス、神経障害等が考えられています。2)
その準備因子(個人の脆弱性)や誘発因子(外的要因)として、高齢、脳血管障害、感染症、脱水(電解質異常により脳神経細胞の低下)、緊急入院(環境の変化)、アルコール依存、せん妄の既往などがあります。
ちなみに、この上げた因子の全てが今回の父に当たり、成るべくしてなったとも言えます。

コロナ禍の入院では、家族の面会が一切できず、環境調整にも限界がありました。
面会できないということは、その間の家族の負担は減るものの、入院中のサポートは病院次第でもあります。
病院選びも慎重にです。
医療資源がひっ迫していると、それも難しい課題です。

「せん妄」に対して鍼灸に何が出来るか考えますが、入院中に起こることなので、鍼灸が介入できることはまれです。
文献を探しても、多くは中国(病院内で鍼灸も一般的)のものです。

このような「せん妄」状態では、急性期が過ぎてもリハビリは進まず、入院していることが 害 にもなってきます。
すると、次なる選択肢は、介護施設に移るか、自宅に戻るかです。

介護施設では、病院よりは環境調整が可能になります。
施設にもよりますが、普段の生活に近い状況で、細かなケアを受けられることもあります。
しかし、入院前からの環境の変化を考えれば、病院と同じ結果も考えられます。
コロナ禍では、病院同様、家族の面会に制限があるところも少なくありません。
そもそも、すぐに入れる良い施設が見つかるか、見つけられるか問題もあります。

そうなると、住み慣れた自宅に帰って過ごすことが、選択肢に上がります。
入院前からの環境変化が防げ、そして何より自由です。
ですが、状態によっては、家族の協力や医療・介護サービスの利用が必要になってきます。

そして、私の父は、自宅に戻りたいという本人の希望と、家族のサポートも可能ということで、在宅での介護 を選びました。
鍼灸治療も自由に受けられます。

介護が必要となってみないと分からないこともありますが、どうありたいか、本人と家族の希望や同意、予め考えておいた方が良いのでしょう。

でも実際は、必要に迫られて、その時の状況で、選択していくことになるのでしょう。
そんな時に相談できる「介護に詳しい人」を見つけておくことが、大事なのかもしれません。

(院)

 

1) せん妄.
公益財団法人長寿科学振興財団
健康長寿ネット

2) 高齢者のせん妄の機序.
日本老齢医学会雑誌. 2014.

親の介護が始まりました

今週、昨年4月から始まった学校での授業が終わりました。
学生さんのテスト結果も良くてホッとしています。
次年度以降は今年度のくり返しで、少し余裕ができるかなと思っていたら…
父の介護の始まりです。

今回の脳梗塞と約1か月半の入院生活は、厳しいものでした。
入院前のように一人での生活は難しく、介護サービスを利用しての生活が始まりました。

病気や介護は予防が大切です。
そうならないようにケアするのが大事なのですが、自分の親に至っては不十分でした。
身近な家族のケアや介護の難しさも感じます。
過ぎた過去の生活習慣も変えられませんし。

それよりも、これから何が出来るか。
介護が始まると、これまでの生活も一変します。
記事を書いている時間も惜しいです。
落ち着いてからまとめるのも考えたのですが、その最中に思うことは多いです。
それと隠しがちな介護のことを、周りの人に知ってもらうことも大事かなと思います。

学生にも、インプットだけでなく、アウトプット=人に伝えることが大切だと度々 伝えています。
(私が苦手なのもありますが…)
間違いや失敗もあるかもしれませんが、それも学びです。
鍼灸師と少し介護士の目線で、親の介護を通して感じたことや出来ることを、書き残していきたいと思います。
それが、同じく今、介護をしている方や、いつか介護が始まる方のお役に立てば幸いです。

介護は大変です。
嫌なことに目を向ければいくらでも見えてきますが、その中でも良いことを見つけていきたいと思います。
そして気負わず、たまに気も抜きながら、ぼちぼち更新していきます。
 
(院)