顎関節症

顔周りの不調は、より不快に感じます。

顎が痛い、口が大きく開かない、

歯ぎしりがひどい、頭痛もする、

それらは歯の噛み合わせの問題だけではありません。

その不調を起こす原因にも注目して、

根本的な対策を目指します。

 

顎関節症とは

顎関節学会には『「あごが痛む(顎関節痛)」「口が開かない(開口障害)」「あごを動かすと音がする(顎関節雑音)」の三つで、このうち一つ以上の症状があり、鑑別診断で他の疾患がない病態を「顎関節症」といいます』とあります1)。 他の疾患とは、化膿性顎関節炎、骨腫、悪性腫瘍、脳疾患等です。それらの疾患に対しては、その治療が優先となります。

顎関節症の特徴としては、自然に治ることもあるということです。放置しても3分の1は自然に症状が消失すると言われています。またどの治療法を見ても、効果は高いものです。施術としては、負担の少ないものを第一選択とするべきでしょう。ただ、まれに難治性の顎関節症であったり、再発をくりかえしたり、医院に行くほどではないけど違和感がある、ということもあります。早期の適切な対策が、重要になってきます。

また、顎関節症 ≠ 顎関節炎です。炎症性のものだけでなく、筋肉、靭帯、関節円盤の不具合からくるものも多いということです。

 

顎関節症の一般的な歯科治療

歯科、口腔外科による、

  1. 鎮痛薬処方(痛み止め)
  2. スプリント治療(マウスピース)
  3. 咬合調整(噛み合わせの調節)

などがあります。

1.鎮痛薬(消炎鎮痛剤)については、上記の顎関節症 ≠ 顎関節炎からもわかるように、痛みに対する効果は低いものです。日本歯科薬物療法ガイドラインにも「関節痛への効果 32.2%」とあります2)

2.マウスピースの効果については、鍼治療と比較研究されたものがあります。(6か月以上痛みのある中等度、重度の顎関節症患者110人に対しての無作為化試験。鍼治療、マウスピース、対照群を比較 3)。)

短期的(6か月)には、鍼治療がマウスピースより優れており、長期的(12か月)には、鍼治療とスプリント治療に有意な差は見られなかったとあります。マウスピースには、慣れが必要ということでしょうか。

また、同じ研究で、鍼とマウスピースによる有害事象の頻度も調べられています4) 。いずれも重篤な有害事象、合併症は観察されていません。そして鍼の有害事象というのは「弛緩」「疲労感」など一般的な鍼の不快症状で、技術により出さないことも可能でしょう。ならば、鍼治療も顎関節症の一つの手段として選ばれてもよいでしょう。

3.咬合調整についても、日本顎関節学会は「初期治療としては推奨しない」とあります1)。歯を削ったりの不可逆的な歯科治療は慎重にする必要があります。削った自然の歯は戻りません。咬合異常が原因でなければ、不要なリスクを負うことになります。

 

顎関節症の原因

では、なぜ顎関節症が起こるのでしょう? その原因として現在世界的に認められている考え方は「多因子病因説」です。顎関節や筋肉に力のかかる様々な要因が重なり、その人の持っている耐久力を超えた時に、症状が出てくるという考え方です。

様々な要因としては、ムチ打ちなどの外傷、かみ合わせの悪さ、歯ぎしりや歯をかみしめる癖、ストレスなどが考えられています。外傷のように原因が明らかなものもあれば、無意識に行なっていたり、何とも対策のし難いものが並べられています。

私たちは、肩こりや腰痛等と同様に、痛みや動きの悪さの原因として、同じ神経支配の「内臓」を考えます。従って、顎関節を構成する咀嚼筋に影響を与えるのは、同じ三叉神経支配の不調であると考えています。それは、鼻、副鼻腔、口腔粘膜などの不調です。そこの状態を整えることで、顎関節症の根本対策を目指します。

 

顎関節症の鍼灸治療

  1. 根本原因となっている、頭部の不調を改善
  2. 痛みの発生している、顎関節まわりの筋肉・筋膜の緊張をゆるめる

1→ まずはまわりの筋筋膜へ影響を与える「内臓」の対策です。具体的には、鼻、副鼻腔、口腔粘膜などの不調です。ここが見逃されていると、慢性的になったり、再発をくりかえしたりすることになります。根本原因への対策が重要です。

2→ 主な症状として口が開かない、開けるときに痛むわけですから、閉口筋の障害が考えられます。側頭筋、咬筋、外側翼突筋(上頭)、内側翼突筋などです。

外側翼突筋は、関節円盤に付着していることから、関節円盤障害(Ⅲ型)や開口時のクリック音に、内側翼突筋は、すりつぶし等の左右の側方運動時に作用することから、歯ぎしりに関与していると考えられます。これら下顎骨の裏側にあるような翼突筋に対しても、鍼は効果的です。

顎関節症をお持ちの方に、頭痛(側頭筋;コメカミの筋肉)や、耳鳴り(内側翼突筋;鼓膜張筋の支配神経)などが多い5) ことも、関連しています。


1) 顎関節症患者のための初期治療診療ガイドライン. 日本顎関節学会
2) 顎関節症の関節痛に対する消炎鎮痛薬診療ガイドライン. 日本歯科薬物療法学会
3) Acupuncture in the treatment of patients with craniomandibular disorders. Comparative, longitudinal and methodological studies.List T. / Swed Dent J Suppl. 1992. 87: 1-159.
4) Adverse events of acupuncture and occlusal splint therapy in the treatment of craniomandibular disorders. List T, Helkimo M. Cranio. 1992.10(4):318-24.
5) Is there a link between tinnitus and temporomandibular disorders? Buergers R, Kleinjung T, Behr M, Vielsmeier V. J Prosthet Dent. 2014. 111(3):222-7.