認知症と頻尿

前回「認知症の鍼灸治療」に引き続き、
今回は、認知症と頻尿について。

 

 

どちらも、高齢者に多い症状の為、同時に悩まれている方も多いようです。

「認知症」の薬に、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(アリセプト等)があります。
アルツハイマー型認知症では、脳内のコリン作動性神経の機能低下が起こっており、アセチルコリンが低下しています。
脳内のアセチルコリンを分解する酵素を阻害することで、コリン量を増加させ、認知機能を改善します。

「頻尿」に出される薬に、抗コリン薬があります。
膀胱周辺にはコリン作動性の神経が存在しており、排尿筋の収縮、括約筋・三角筋の弛緩作用により、排尿を促進させます。
その副交感神経亢進のアセチルコリンの作用を抑えることで、コリン量を減少させ、頻尿を改善します。

この相反する作用から、従来の過活動膀胱に対する抗コリン薬には、脳(中枢)へも影響を与えるものがあり、注意も必要です。

(最近の頻尿(過活動膀胱)の薬には、膀胱だけに作用するものや、上記と違う作用(交感神経を促進)で改善するものもあります。どちらの症状に対しても、併用できるお薬はあります。)

 

その抗コリン薬が、認知機能へ与える影響について。

「認知機能低下を誘発しやすい薬剤」というものが、認知症疾患治療ガイドライン※1 にも載っています。

睡眠導入剤、向精神薬などが上げられますが、抗コリン薬もあります。

その薬を止めれば治まる短期的なものもあるようですが、「長期的な抗コリン作用のある薬の使用で、認知症発症リスク増加」という研究※2 もあります。
「65歳以上の高齢者が、3年以上常用量の抗コリン作用のある薬の使用で、認知症のリスクの増加が生じる可能性がある」ということです。

この抗コリン作用の薬は多く、頻尿改善、下痢止め、抗パーキンソン、酔い止め等があります。
また、抗ヒスタミン剤も、副作用として抗コリン作用を持っているそうです。
とても多くのお薬が該当するので、注意は必要でしょう。

 

逆に、認知症薬が、膀胱へ与える影響も考えられます。

アリセプトのホームページ※3 には、
「副作用として、頻尿が8例/4429例(0.18%)が報告」
「頻尿の発現機序については、コリン作動性作用が影響する可能性」
ともあります。

確率は非常に低いですが、0とは言えないようです。

 

こういった薬の影響もあるので、おかしいなと思えば、医師や薬剤師さんに相談されてみて下さい。

 

この認知症患者さんの頻尿という症状は、少なくないようです。
記憶障害の影響で、トイレに行ったことを覚えていなくて、何度もトイレに行くこともあります。

周辺症状(BPSD)ととらえ、環境や接し方を変えることで、改善することもあります。
つまり何かしら理由があって、「頻尿」という行為につながっているということです。

例えば、トイレに行くことで、落ち着くことはあります。
何か不安を紛らわせるために、トイレに行くことも考えられます。
そのときは、その「不安」を対処することで、「頻尿」が治まることもあるのでしょう。

認知症の症状も、頻尿も、その人それぞれの原因があります。
いろんな視点で考えていく必要がありそうです。

 

※1 認知症疾患治療ガイドライン2010

※2 Cumulative use of strong anticholinergics and incident dementia: a prospective cohort study.
Gray SL. JAMA Intern Med. 2015 Mar;175(3):401-7. doi: 10.1001/jamainternmed.2014.7663.

※3 アリセプト(エーザイ) 第Ⅶ章 注意すべき副作用とその対処法

 

 

食物アレルギーについて

アレルギー学会感想つづき

食物アレルギーについて

最新の治療は「どう食べさせるか」が基本になっていました。
口から取り込み、腸内で抗体が作られることで耐性ができるからです。

具体的には必要最小限の原因食物除去。食物経口負荷試験で原因食物の食べても症状が出ない量を確認し、食べられる量は積極的に食べる。
3歳未満では6カ月ごとに原因食物に反応しているIgE抗体検査、6カ月から1年ごとに経口負荷試験をして食べられる物、量を確認していく。
(6才以上ではIgE抗体検査、経口負荷試験は1年から3年毎)

必要最小限の食物除去とは
1.食べると症状が誘発される食物だけを除去する。”心配だから”、“念のため“といって必要以上に除去する食物を増やさない。
2.原因食物でも症状が誘発されない、食べられる範囲までは食べることができる。
食べられる範囲“の量を除去する必要はなく、むしろ食べられる範囲までは積極的に食べるように指示することが望ましい。
(食物アレルギー診療の手引き2014より)

学会では症状が出る量を食べてしまった場合でも、その1回の負荷で耐性ができることもあると言われていました。

 

食物アレルギーは 秋冬生まれ、離乳食開始の遅れ、家族歴、環境アレルゲンの有無がハイリスクになるといわれます。

最近増えているのは果物アレルギーで、花粉症が関係する可能性が高いとのことです。

花粉症があると、交差抗原性といって、アレルゲンそのものでなくても似ている構造のあるものに反応して症状がでてしまうので、
カバノキ科ハンノキ属(ハンノキ)、カバノキ属(シラカバ)は、バラ科植物のリンゴ・モモ・サクランボなど、
イネ科とブタクサは、ウリ科植物のメロン、スイカなど、
ヨモギは、せり科植物のセロリ、ニンジンなどを食べるとアレルギー症状が出るのだそうです。(口腔アレルギー)

舌下免疫療法などの花粉症の治療をすることで、耐性ができ、上記のアレルギーも治る可能性も示されました。

 

また、皮膚や粘膜のバリアを強化することで皮膚や粘膜直下にいる免疫細胞の応答が減り、症状が出にくくなるのだそうです。

鼻の粘膜は腸などの粘膜と違い皮膚に近い構造を持つため、潤いやバリアを保つことで症状を予防できる可能性が高いそうです。
花粉症でも皮膚バリアの強化がポイントになりそうです。

食物アレルギーのハイリスクである秋冬生まれは、日照時間や日光に当たる機会が減ってビタミンDが不足すると食物アレルギーになりやすいという説もありますが、皮膚粘膜の乾燥でバリアが壊れたことも疑えます。

※バリアの強化は粘膜へのワセリンの塗布、症状が出ている場合にはステロイド塗布
(鍼灸での対策は、鼻粘膜の循環を良くして潤いを保ったり、粘膜細胞のターンオーバーをスムーズにしたり、酸素や栄養が患部に届きやすくなるので粘膜の強化につながります。)

 

食物アレルギーは乳児期の発症では治りやすいとも言われていました。
乳児期は皮膚粘膜も薄く、免疫細胞の発達も途上なので、症状が出るのも当たり前なのかもしれません。

アトピーや喘息がある場合は、重篤な症状を防ぐために、まず湿疹の治療、喘息の治療をしてから、食物アレルギーの治療に入るそうです。

学会では湿疹の治療そのものが食物アレルギーを減らすという研究発表もありました。
湿疹部で多く作られるリンパ球の好塩基球が腸管粘膜にある肥満細胞を活性化して症状が出る可能性があるそうです。

皮膚や粘膜の症状は食物アレルギーを増やす。
やはり皮膚や粘膜から入るとアレルギーになり、口から入ると耐性ができる、というのが基本のようです。

 

 

腸内細菌について

先日のアレルギー学会では基礎医学の研究成果と、臨床での研究、傾向についてなど講演がありました。
印象に残ったことをいくつか紹介します。

まずは腸内細菌について。

 

 

腸内細菌の働きは大きく「栄養」と「感染予防」です。

まず「栄養」ですが、腸に食物が入ると腸内細菌が食べて酵素を出し、その酵素が食物を吸収できる形に分解し、身体の栄養として取り込めるのだそうです。

そして「感染予防」ですが、無菌マウスの実験では、腸内細菌を持たないマウスは自身の免疫細胞が作られず、無菌室を出ると感染症にかかり、すぐに死んでしまうのだそうです。
細菌を取り込むことで初めて体を守る機能を発達させている、ということです。

母親から生まれるときの赤ちゃんの腸は無菌状態です。
口から入る細菌を少しずつ取り込んで腸内に住ませます。
帝王切開で生まれた赤ちゃんが、将来アレルギーになりやすいというデータもあります。子宮口から出る時に受け取るはずだった膣の菌を取り込めなかったことが原因ではないかと言われ、帝王切開で生まれたばかりの赤ちゃんに膣の菌を付ける対策をされる先生もおられるそうです。

腸内には1000種類以上、数百兆個の細菌がいて、その重量は1.5キロから2キロ。
殆どが嫌気性といって、空気に触れると死んでしまう細菌です。
その弱い菌ですが、腸以外の粘膜や腸の粘膜上皮に付くと炎症を起こします。
その小さい炎症が上記の感染予防につながります。
また細菌による小さい炎症でスイッチが入り、粘膜のターンオーバーが起こる仕組みもあるそうです。(腸の粘膜上皮は皮膚とは違い、数日で全部入れ替わるほど速いスピードでターンオーバーが起こっています。)

ただ、潰瘍を起こすような大きな炎症は、やはり害があります。

腸には”粘液層”という分厚い無菌の層があり、それが細菌と腸粘膜を隔てて、感染を防いでいます。

さらに大腸の粘膜で感染を防ぐ仕組みが昨年見つかったそうです。

大腸の粘膜上皮の最表層には”Lypd8”という蛋白質が多数あり、それが細菌の鞭毛に取り付いて動きを止めることで感染を防いでいる、ということでした。

(国立研究開発法人 科学技術振興機構
共同発表:腸内細菌の大腸組織侵入を防ぐメカニズムを解明」)

 

腸の働きが落ち、粘液層が薄くなると、まず鞭毛(鞭毛が尾ひれの様に働き、よく動ける)を持つ種類の細菌が腸粘膜上皮にたどり着いて炎症が起こります。
粘液層を泳いでくる細菌だけを止める仕組みや、感染すると害のある細菌を殺さずに共存する仕組みに、驚きました。

 

最近はアレルギーの予防になる可能性がある細菌も見つかっています。
ただ、既にその細菌を持っていれば、それほど変化がないのだとか。
必要なのは細菌の多様性なのだそうです。
1つの菌が突出して多いより、バランスよく多くの菌がいることが、健康に繋がります。
毎日同じものを食べるのではなく、色んなものを食べることで、多様性が生まれるそうです。

ストレスも腸内細菌を変化させます。
病気に意識を集中させないことも、ストレスを減らして細菌のバランスを保つことになるのでしょう。

 

色々な細菌を大事に生かしている腸の仕組み、悪玉も善玉も本当に悪だけで善だけなのか、簡単には分からないということでしょうか。

子供が熱を出したり湿疹が出たりすると親としては不安になりますが、細菌を取り込んで、軽く病みながら育つのが自然なのかもしれないと感じました。

 

 

第66回日本アレルギー学会

先週16日、17日の2日間、第66回日本アレルギー学会学術大会に参加してきました。
東京国際フォーラムで開かれた学会のテーマは、
「紡ぎだす、アレルギー学の新たな半世紀 ~知りえたコト、解くべきコト~」。
アレルギー症状の発現に関わるIgE抗体発見から50年を過ぎ、次の半世紀に向けてのテーマとなっています。


(ロビーの様子)


(会場の中庭)

アレルギーは症状が多岐に渡るため、内科、小児科、耳鼻科、皮膚科、眼科、基礎医学、各分野が参加する横断的学会でした。

未だ謎の残る皮膚のターンオーバーの仕組み、腸粘膜のターンオーバーの仕組み、皮膚バリアについて、腸内細菌について、炎症を起こすときに働く免疫細胞の種類、働きについて。

また、臨床での症例、新しくなった食物アレルギーのガイドラインについて等、今それぞれの分野で研究されている最新の成果が活発に交換される場になっていました。


(ポスター発表会場)


(企業のブース)


(これから開かれる講演等)

一般向けの講義ではない為、なかなか難しい内容も多かったのですが、皮膚のターンオーバーの仕組みと、腸内細菌についての講演は特に面白く聞くことができました。

腸には多くの細菌(異物)を住ませることで初めて栄養を取り込む仕組みがあり、また、その細菌があることによって免疫細胞を発達させる仕組みがあり、悪玉、善玉の区別なく、多くの種類の菌を持つことが健康に繋がる話は改めて印象に残りました。
細菌をいかに住ませて、感染せずに腸粘膜を守るのか、その仕組みも面白く、ワクワクする内容でした。
ある種の細菌が多いと特定の病になりやすいという事もいくつか解っているようですが、細菌が1000種類以上、数百兆個単位であるといわれ、解析はまだこれからのようです。

腸内細菌バランスは食事、感染、加齢のほか、ストレスによっても変化するそうです。
鍼灸には身体にかかるストレス(負荷)そのものを取ったり、ストレスの感じ方を和らげる効果があります。
多くの種類の菌が気持ちよく住める環境づくりに、鍼灸にもできることがありそうです。

身体にはいろいろな仕組みがあって、今わかっている仕組みもほんの一部なのでしょう。
研究されている先生方が、まだ何かあるはず、という意識を持っておらるのが伝わりました。
何気なく過ごしていると病や不調の方が目立ちますが、私たちの身体はやはり驚くほど精緻で、素晴らしいのだと感じました。

充実した2日間を過ごしてきました。
新しい知識を患者さんにもお伝えしていこうと思います。
 
 

来年の花粉症治療

今年も暖かった先週あたりに、花粉症がひどくなっている方がおられました。サクラと同じく、遅めにどっと来た感じです。ここ西日本では、花粉はスギからヒノキへ移り変わっていますが、「ヒノキの方が症状がきつい」、「目のかゆみがひどい」、「ノドが不快」といった患者さんも多かったように思います。

スギに対してアレルギーを持っている人は、ヒノキも併発しやすいことが言われています。ヒノキに反応している人は、スギ花粉が飛び始めてから長期間、アレルギー症状に悩まされることになります。すると、始めは鼻だけにきていた人も、鼻詰まり⇒口呼吸⇒咽へ影響、という一歩進んだ症状に移りやすいとも言えます。症状は長引くほど、重症化しやすい傾向があります。

とはいえ、ヒノキもピークを迎え、春の花粉症は、あと少しです。鍼灸治療でアレルギー症状やそれに伴う他の症状(頭痛、肩こり等)を楽にすることができます。それら症状の程度は、体調などによっても変わります。花粉量と症状の度合いは比例しないようです。「花粉」だけが問題ではなく、花粉に対する「身体」の問題です。だから、花粉を責めるよりも、自分の身体を見直してみましょう。

また、一般的に、花粉症のようなアレルギーは、「一度発症すると治らない」とか、「アレルゲンに触れると必ず反応するようになる」と言われますが、そうでもありません。アレルギー疾患に関わる免疫反応は複雑です。単純に免疫が上がるとか、下がるとかでは説明できないものもあります。

そんな花粉症もできれば、マスクや抗アレルギー薬といった対症療法に頼らず、根本治療を目指したいところです。それには、一般的に根本治療として認められている「減感作療法」と同じく、花粉症の飛散時期を避けた、これから次のシーズンまでが重要なのでしょう。花粉症のつらさも実感している「今」が、治療の始めどきなのです。

かく言う私も、この春の花粉に対してアレルギーがあるようです。(そう、先週あたりにどっと。)そんな花粉に反応しない身体になったと、いつかご報告できればと思います。

耳について

今日(3月3日)は、耳の日ということで。

<耳の役割>

音の伝導路としてはたらく聴覚器官

音は空気の振動です。振動した空気は、いわゆる「みみ」と呼ばれる外耳でひろわれ、中耳にある「鼓膜」、「耳小骨」へと増幅され伝わっていきます。その振動は内耳にある「蝸牛管」に伝えられます。蝸牛管の中にはリンパ液があり、その揺れが、「有毛細胞」と呼ばれる特殊な細胞の感覚毛を刺激して、電気信号が発生します。その信号が、「内耳神経」を通じて脳に伝えられ、音として認識されます。このどこかのトラブルが、音の聞こえに悪さします。

絶対不可欠な平衡感覚器官

耳と言えば、外から確認できる聴覚器のはたらきはよく知られていますが、実はこの内部にある平衡感覚器のはたらきも、非常に重要です。平衡感覚器があまり知られないのは、そのはたらきが普段わかりにくいものだからでしょう。しかし、この機能が失調すると、姿勢も保持できず、吐き気をもよおし、食事も困難になります。つまり、生死にも関わります。目が見えなくても、耳が聞こえなくても生きていけますが、平衡感覚がないと生きていけません。また、普段気付かない感覚器なので、ここの不調は自分でもわからない精神状態(脳)にも大きく影響すると考えます。

<耳の構造>

耳の構造は、外耳(がいじ)、中耳(ちゅうじ)、内耳(ないじ)に分かれています。

 

【外耳】

外から見える部分で、音波を受信するアンテナのようなはたらきを持ちます。ここで音波をとらえて、鼓膜へと振動を送ります。この入り口に耳垢(みみあか)などが詰まっていると、音は聞こえにくくなります。当たり前なことですが、意外とそれで難聴を訴え、病院に来られることもあるようです。ちなみに、耳には自浄作用というものがあり、耳掃除はされなくてもいいらしいですよ。むしろ、耳掃除で、傷つけてしまったり、耳垢を奥に詰まらせてしまったり、負の影響が大きいようです。(今年、米国の耳鼻咽喉科頭頸部外科学会が、耳掃除しないように忠告しています。)
耳は左右で二つあります。左右に入る音のずれを脳が感じ取ることで、音の方向を判断します。耳のはたらきは繊細です。

⇒ 外耳のトラブル
外耳を原因とする場合は、耳の穴から虫や異物が入り込んだ場合などが考えられます。耳あかが詰まって難聴ということもあります。ただ、これらの原因は、外から耳の穴をのぞいてもらえばわかるものです。

 

【中耳】

中耳は、「鼓膜」の奥に位置し、鼓膜の振動を増幅させる「耳小骨」(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)と呼ばれる、人体で最も小さい骨が存在します。また、その鼓膜や耳小骨を支える筋肉もあります。ここの不具合が、音の聞こえに影響することもあります。
この中耳はふさがっており、電車や飛行機に乗っているときに急な気圧の変化があると、鼓膜に圧がかかります。すると音が聞こえにくくなったりもしますが、物を飲み込んだりすることで自然に空気が流れ込み、解消されます。それは、中耳が、「耳管」というトンネルで、口とつながっているからです。

⇒中耳のトラブル
鼓膜は、振動を伝える太鼓の皮のようなもので、その緊張度によって音の伝わり方が変わります。炎症や気圧の違いによって変化することもあります。耳小骨は、小さな筋肉によって音の伝え方を調整されています。この筋肉が緊張を起こしていたり、炎症などで耳小骨の連結に癒着が起こっていると、耳鳴りの原因となる可能性があります。そして耳と鼻をつなぐ耳管が、狭くなったり、開きすぎていても、「耳管狭窄症」や「耳管開放症」といって、難聴や耳鳴り、音や声が響いたりすることもあります。
いわゆる「中耳炎」という状態は、ここのトラブルを生みます。一時的な炎症であればいつの間にか治ったで済みますが、慢性的に炎症しているとなると、ずっと不調を感じることもあるでしょう。しかし炎症である以上、その状態により変化もし、それが治まれば「治る」ことも可能です。鍼で炎症を抑える、回復を早めることができます。

 

【内耳】

内耳は、聴覚器官である蝸牛(かぎゅう)と、平衡器官である前庭(ぜんてい)という二つの部分から構成されています。
さらに、平衡器官の前庭は、水平と垂直方向の位置を感知する卵形嚢(らんけいのう)、球形嚢(きゅうけいのう)と、回転を感知する三半規管で構成されています。その中はリンパ液で満たされています。この小さな器官の状態によって、聴覚や平衡感覚に不具合が生じてきます。
内耳は、それほど有名ではありませんが、非常に重要なはたらきを持っています。めまいやふらつきには、ここの失調が大きく関与します。ここは狂いにくいとこですが、一度狂うと、その回復には時間も要します。

⇒内耳のトラブル

〔聴覚〕
内耳にはリンパ液が満たされています。このリンパ液の環境に問題があれば、聞こえ方にも影響が出てきます。聴覚は「蝸牛管」、平衡感覚は「三半規管」と異なる器官に役割は分かれますが、同じ内耳にあり、リンパ液で満たされています。耳鳴りとめまいは同時に現れることが多いことから、このリンパ液に何か問題が起こっていることは十分考えられます。
リンパの中でも、内リンパは「血管条」というところで産生・排出されています。この血管条はその名の通り、蝸牛管内の毛細血管の網をなしています。つまり、ここは血液循環の影響を受ける部分です。そして内リンパの中には、「有毛細胞」があります。リンパを伝わってきた物理的振動を、神経から脳へと伝えるために電気信号へと変換する部分です。「外有毛細胞」が振動の増幅を、「内有毛細胞」が聴神経へと伝えるはたらきをしています。細胞である以上、血液によって養われています。
耳鳴りの薬として処方される、血流改善剤、利尿剤などは、これらリンパや血液循環に作用します。ただ、薬は全身を巡り、どこに作用するかあいまいです。耳鼻科へ行って治りが悪くとも、鍼灸治療で治ることもあります。鍼灸ではこの内耳を狙い撃ちできることから、その効果も高いと感じます。

 

〔平衡感覚〕
平衡感覚器の特徴
内耳の三半規管で感じ取ったバランスの情報は、大脳を介さずに直接機能します。他の感覚には大脳に「感覚野」があるのに対し、「平衡感覚野」というものは存在しません。それは、平衡感覚が生物にとって、考えるより先に反射的にはたらかなければいけないからでしょう。また、他の感覚と違って、普段感じにくいことも特徴です。

平衡感覚の失調
めまい、ふらつき、立ちくらみなどを感じます。あまり意識しない感覚ですが、動物にとって生きていくためには絶対欠かせない重要な感覚です。
姿勢の悪さや、つまずきも平衡感覚の失調症状のひとつに含まれるでしょう。つまずくのは、わずかな段差や、視覚情報の制限された暗闇、立ち上がってすぐの寝起きなどが多いものです。筋力だけの問題ではなく、平衡感覚の失調による身体のバランス調節のずれや、それをカバーするために、知らず知らずのうちにすり足になりつまずいた、と考える方が納得できます。

自律神経系に影響
この左右の耳の奥にある平衡感覚器に障害が起きると、左右で異なる信号が脳に伝えられ、脳は混乱し、立ちくらみ、失神、吐き気、冷や汗、パニックなどの精神障害、いわゆる自律神経症状が現れます。
平衡感覚は常に働いているため、脳はずっとその混乱状況下におかれます。それは心の持ちようでどうにかなるものではありません。パニック障害、うつ病などの精神疾患は、そういった体の不調から起こるものだとも考えられます。

平衡感覚を失調させるもの
この内耳による平衡感覚を失調させる原因は、風邪と同じく菌や免疫力低下によるもので、内耳の粘膜やリンパの状態が悪くなったものと考えます。内耳内の三半規管は、リンパ液で満たされており、内耳の炎症によりリンパの流れが乱れることにあります。この炎症は、風邪を引いたとき、ストレスや過労で全身的に免疫力が落ちているときに起こりやすくなります。

平衡感覚の治療
あまり聞いたことはないかもしれませんが、治療できます。これらの症状に、平衡感覚をつかさどる左右の内耳の反応を確認します。本来感じにくい感覚なので、自覚症状がないこともあります。しかし、不調があれば、反射により反応が出ています。何も思い当たることはないけど、調子が悪いと感じるときは、この平衡感覚の不調を疑ってみます。
自覚症状が出る前にしっかりケアすることも大切ですし、症状がひどい方も、根気よくケアすることで回復に向かいます。この部分は変化を受けにくく、障害を受けにくいものです。逆にそこが障害されてしまうと、代謝も悪く、治りも悪いということです。この部分の治療は、根気強く長く続けることが重要です。

 

これら内耳のトラブルがベールに隠されています。内耳は頭蓋骨の中に埋め込まれた、非常に小さな器官です。覗くこともできないし、検査で測ることも困難です。だからこそ、医療に見過ごされがちになります。ただ、外界の情報を受け取って生きる動物にとって、ここのトラブルは深刻です。

 

 

アレルギー市民公開講座にいってきました

日本アレルギー協会主催の市民公開講座に出かけてきました。

私(副院長)も所属している日本アレルギー協会は、1966年に石坂公成先生がIgE抗体を発見したのを機に1967年に発足しました。
IgE抗体が米国のアレルギー学会で発表された2月20日を「アレルギーの日」と制定し、1995年からその前後1週間 を「アレルギー週間」としてアレルギー疾患に対する一般の方々や医療従事者の理解と啓発活動を行っています。

神戸会場のテーマは
『治療について考えよう』

第一部
「花粉症・アレルギー性鼻炎の対策と治療」
都築健三先生(兵庫医科大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 准教授)

第二部
「アトピー性皮膚炎をしっかり治すために、正しく理解しよう」
福永淳先生(神戸大学医学部付属病院 皮膚科 講師)

という2つのプログラムでした。

第一部では、

鼻の仕組みや炎症の起こる機序の説明から始まり、対処療法、根治療法の種類と方法、セルフケアのアドバイスもありました。対処療法としていくつかの手術の様子を実際に見ることもできました。

配られた冊子によると、

・根治療法である減感作療法(皮下免疫療法)は症状の軽減、無症状が80%以上であるが、治療が年単位で頻回の通院が必要であること。

・新しい免疫療法である舌下免疫療法は皮下免疫療法より副作用が少なく、初回以外は自宅でできる手軽さはあるが、患者さん自身の理解がより必要になること。

・皮下免疫療法は季節の3か月前からの通院と皮下注射を年単位で行う必要があり、副作用の可能性もあるために注射後の観察も必要で、治療を完了できない方も多かったようです。それに比べて新しい舌下免疫療法は患者さんの負担が減るので多くの方が治療を完了できるようになるだろうといわれています。今後10年以内には、さらに負担が少なく、より安全な療法が受けられるように研究開発がされています。

第二部では、

・皮膚バリアが壊れると、異物によって炎症を起こす免疫細胞が増え、また、痒みを伝える神経そのものの成長が起こり、掻くことでさらなる炎症が起こること

・皮膚バリアを保つために保湿だけでなく保清も大切であること

・痒み、アレルギー反応は、いくつかの機序から起こり、一つの原因で起こるわけではないこと

・炎症を起こしている免疫担当のリンパ球は、薬(ステロイド・タクロリムス)でその働きを抑えているうちにアポトーシス(もともとプログラムされた細胞死)が起こり、炎症が治まること

・痒みやアレルギーを誘発する物質がいくつかわかってきて、それに対する薬の研究も進んでいること

・医師の説明がしっかりなされ、患者さんが理解し、患者さん自身が治療方針決定に参加する”アドヒアランス”が重要

など、わかりやすく聞くことができました。

花粉症とアレルギー性鼻炎では粘膜に付着させないこと、アトピー性皮膚炎は皮膚のバリア機能を保つことが大切です。
粘膜や皮膚の潤いを保ち、強化することによって症状が抑えられるというヒントがたくさんありました。

皮膚や粘膜の代謝を整えたり、皮膚や粘膜をつくる内臓の働きを高めることは鍼灸の得意分野です。
SORAの患者さんにもお伝えしていこうと思います。

患者さん本人が体の状態を知る機会が多いほど、不安も減り、治療に取り組みやすくなります。
関西での市民公開講座は2月26日で終了しましたが、日本アレルギー協会では一般の方への情報発信もしています。
興味のある方は是非のぞいてみて下さい。

日本アレルギー協会
http://www.jaanet.org/

↑ 配られた冊子。治療院に置いてあります。

 

 

インフルエンザとノロ対策

先週は、患者さんやそのまわりの方で罹ったとよく聞きました。その感染力から、流行りだすとまわりの方もハラハラします。でも同じようにウイルスにさらされても、発症する人、しない人、症状の軽い人がいます。医師や看護士さんはウイルスに触れていても、その都度ダウンはしていません。そのウイルスに対して、免疫を獲得しているからだと考えられます。

どちらもウイルスで、もちろん抗生物質は効きませんし、治す薬もありません。ワクチンも個人の感染を防ぐわけでなく、免疫がすぐ働くように重症化を防ぐようなものです。(それに当たりハズレもあります)

結局は、その人の「免疫力」というものが大事です。そのウイルスに触れないようにビクビクするよりは、自分の免疫力をしっかり上げて、強い身体を作ることが安心です。鍼灸には、その自己免疫力を調整する作用があります。まわりの免疫の弱い子どもや高齢者のためにも、まずは自分の免疫を上げて重症化させないことが、まわりの方へのやさしさにもつながります。

 

 

乾燥と肌荒れ

乾燥で肌が荒れやすくなることは、経験的にご存知だと思います。では乾燥がどのように肌に悪さするのでしょう?

乾燥環境(約10%)にさらされると1~3日くらいで、皮膚はさまざまな刺激に対して敏感になるという実験結果があります。※1 目に見える変化はなくとも、わずかな刺激で、表皮の異常増殖が起こり、アレルギー反応も出やすくなる傾向を示します。湿度が通常(40~70%)や、高湿度の状態では、起こらないようです。さらに時間が経てば、皮膚のバリア機能も高くなり適応する能力を持っています。つまり、乾燥環境下にさらされることで、皮膚のバリア機能が「一時的に」低下します。湿度の変化が肌を悪化させる要因の一つのようです。※2

最近は加湿器も普及し、冬の部屋の中は高湿度に保たれています。ところが外はというと、都市化も進み、乾燥が進んでいます。隙間風のない建物の密閉化も、そのギャップに追い打ちをかけているようです。(夏は逆に、外は暑く高湿度、内はエアコンで低湿度になります。) 便利さや快適さが増すことで、その代償もきっとありますよね。

冬に限らず、この湿度変化による皮膚バリア機能の低下がポイントになってくるようです。肌が弱い方やアトピー性皮膚炎、アレルギー体質の方は参考にされてみて下さい。

※1
Regulation of the cutaneous allergic reaction by humidity

※2
「賢い皮膚」 傳田光洋

冬の肌荒れ対策

寒い日が続きますね。この辺りは雪が積もることはありませんが、少し北や山へ向かえば雪景色の所も。普段、雪を見ない私にとっては、少しテンションも上がります。

ところがこの冬の時期に、肌の調子が悪くなる方も少なくありません。特に、手先や顔など。肌が露出しているところも多いようです。この時期に悪くなる原因としては、「寒さ」と「乾燥」でしょうか。

寒いと、やはり血流が悪くなります。外界に面している部分からは直接熱が奪われますし、身体の中の深部体温を一定に保とうとする働きによっても、やはり末梢の血流が悪くなります。血流が悪くなれば、その周辺の細胞環境=皮膚も悪くなるのでしょう。また、運動不足や筋肉のコリなどによっても、血流は悪くなります。

乾燥は、身体のバリア力を低下させます。空気に触れている肌もそうですが、身体の中の粘膜も。この時期は、風邪やインフルエンザの流行を例に、鼻やノドの不調が顕著になります。その鼻やノドの不調が、同じ三叉神経支配の顔面部にトラブルを起こします。

つまり冬の肌荒れ対策としては、冷えや乾燥を防ぎ、頭部、手先足先の血流を良くすること。運動や鍼灸でこわばっている筋肉のコリをとることもひとつでしょうか。気になる部分とその原因部分にセルフケアも追加していけば、荒れたお肌もよみがえっていきます。