認知症の改善

「認知症」の患者さんにおいて治療効果を感じられた一例です。

元々は、「頻尿」の為の治療でした。
頻尿は、膀胱反応点への施灸や刺鍼で、改善はよく見られます。
鍼灸の得意とするところでしょう。

また、反応点治療では、全身治療を行ないます。
認知症薬を長く服薬されていることもあり、頭皮にも注目して施術、セルフケアもお願いしました。

すると、2回目の施術の時点で、

「頭がはっきりしてきた」

と、思わぬ効果がありました。
その後も、鍼灸を始めてから、変化してきた様子です。

「薬を自ら飲むように」
「応答がしっかりするように」
「置いてあった洗濯物を畳むように」
「料理の手つきがしっかりしてきた」
「ゴミ捨てを積極的に行なうように」

記憶力の向上というよりは、意欲の向上かもしれません。

しかし、「意欲低下(アパシー)は、認知症の原因となる疾患のほとんどすべてで、最も高頻度に認められる行動・心理症状(BPSD)である。」※

とあります。
他にもパーキンソン病、脳卒中後患者、脳器質疾患など、多くの神経障害疾患で、見られる症状です。
BPSDといいつつも、抗認知症薬で改善がみられることもあり、脳内の神経伝達物質や前頭葉-皮質下回路の障害ではないかとも言われています。

(今年2月には「脳内にある、やる気のスイッチを発見」※2 というニュースもありました。大脳基底核(腹外側線条体の D2-MSN)の細胞集団にあるようです。)

 

意欲の低下は、QOLの低下や、介護者への負担にもつながります。
意欲低下が、老いること、そして認知症につながるとも考えられます。

意欲の向上が見られたということは、本人や家族にとって喜ばしいことです。
それが、認知症の予防や老化の抑制にも、つながるかもしれません。

 

全身治療の為、何が作用しているかは不明です。

しかし、頭皮に反応点が見られていたこと、鍼灸を始めてから改善が見られたことから、鍼灸治療やローラー鍼刺激に何かしら効果があったのではと思います。

認知症患者さんに限らず、予防も見据えて、頭皮の反応点には注目していきます。

 

※1 認知症疾患治療ガイドライン2010

※2 脳内にある、やる気のスイッチを発見-意欲障害の治療法探索が可能に-
慶応義塾大学 医学部

 

 

認知症と頻尿

前回「認知症の鍼灸治療」に引き続き、
今回は、認知症と頻尿について。

 

 

どちらも、高齢者に多い症状の為、同時に悩まれている方も多いようです。

「認知症」の薬に、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(アリセプト等)があります。
アルツハイマー型認知症では、脳内のコリン作動性神経の機能低下が起こっており、アセチルコリンが低下しています。
脳内のアセチルコリンを分解する酵素を阻害することで、コリン量を増加させ、認知機能を改善します。

「頻尿」に出される薬に、抗コリン薬があります。
膀胱周辺にはコリン作動性の神経が存在しており、排尿筋の収縮、括約筋・三角筋の弛緩作用により、排尿を促進させます。
その副交感神経亢進のアセチルコリンの作用を抑えることで、コリン量を減少させ、頻尿を改善します。

この相反する作用から、従来の過活動膀胱に対する抗コリン薬には、脳(中枢)へも影響を与えるものがあり、注意も必要です。

(最近の頻尿(過活動膀胱)の薬には、膀胱だけに作用するものや、上記と違う作用(交感神経を促進)で改善するものもあります。どちらの症状に対しても、併用できるお薬はあります。)

 

その抗コリン薬が、認知機能へ与える影響について。

「認知機能低下を誘発しやすい薬剤」というものが、認知症疾患治療ガイドライン※1 にも載っています。

睡眠導入剤、向精神薬などが上げられますが、抗コリン薬もあります。

その薬を止めれば治まる短期的なものもあるようですが、「長期的な抗コリン作用のある薬の使用で、認知症発症リスク増加」という研究※2 もあります。
「65歳以上の高齢者が、3年以上常用量の抗コリン作用のある薬の使用で、認知症のリスクの増加が生じる可能性がある」ということです。

この抗コリン作用の薬は多く、頻尿改善、下痢止め、抗パーキンソン、酔い止め等があります。
また、抗ヒスタミン剤も、副作用として抗コリン作用を持っているそうです。
とても多くのお薬が該当するので、注意は必要でしょう。

 

逆に、認知症薬が、膀胱へ与える影響も考えられます。

アリセプトのホームページ※3 には、
「副作用として、頻尿が8例/4429例(0.18%)が報告」
「頻尿の発現機序については、コリン作動性作用が影響する可能性」
ともあります。

確率は非常に低いですが、0とは言えないようです。

 

こういった薬の影響もあるので、おかしいなと思えば、医師や薬剤師さんに相談されてみて下さい。

 

この認知症患者さんの頻尿という症状は、少なくないようです。
記憶障害の影響で、トイレに行ったことを覚えていなくて、何度もトイレに行くこともあります。

周辺症状(BPSD)ととらえ、環境や接し方を変えることで、改善することもあります。
つまり何かしら理由があって、「頻尿」という行為につながっているということです。

例えば、トイレに行くことで、落ち着くことはあります。
何か不安を紛らわせるために、トイレに行くことも考えられます。
そのときは、その「不安」を対処することで、「頻尿」が治まることもあるのでしょう。

認知症の症状も、頻尿も、その人それぞれの原因があります。
いろんな視点で考えていく必要がありそうです。

 

※1 認知症疾患治療ガイドライン2010

※2 Cumulative use of strong anticholinergics and incident dementia: a prospective cohort study.
Gray SL. JAMA Intern Med. 2015 Mar;175(3):401-7. doi: 10.1001/jamainternmed.2014.7663.

※3 アリセプト(エーザイ) 第Ⅶ章 注意すべき副作用とその対処法

 

 

認知症の鍼灸治療

私たちが所属する反応点治療研究会では、毎月の関西勉強会があります。
開業や勤務されている先生方が集まり、症例報告などが行なわれています。

今月は、私(院長)の担当で、認知症の治療について発表を行ないました。
良い治療効果が出ていることもあり、結構いろいろ調べもしました。
こちらでもまずはその「認知症に対する鍼灸治療」について、ご紹介します。

先日のブログでも投稿しましたが(「H28年の国民生活基礎調査」)、これからの高齢化社会を迎えるにあたり、認知症対策は他人ごとでは無くなってきています。

長生きするようになれば、認知症になるのは、しょうがないことでしょうか?
しかし、高齢化が進んでいる欧米では、認知症の有病率が減ったという研究結果も増えています。※1,2
その理由としては、生活習慣病の改善、教育水準の上昇などが言われています。
(途上国で糖尿病の増加率が著しく高いこともあります。)
統計からは何が要因かは明確にされませんが、対策ができるものではあるのでしょう。

また、脳の典型的な変化は何十年も前から始まることは言われています。
アルツハイマー病の原因としていられるアミロイドβなどの蓄積も40歳代頃から起こり始めると考えられています。
つまり、「予防」が一つのテーマとなっています。

 

その認知症発症の要因となっていると考えられているものに、高血圧と糖尿病があります。

高血圧は、動脈硬化を引き起こします。
脳内の血管の梗塞が、脳の働き、認知機能にも影響します。

継続して鍼灸治療をしていると、高かった血圧が低下していくことはよくあります。
(交感神経活動の抑制、末梢の血液循環の改善でしょうか。)

また、先月の鍼灸学会でも紹介されていましたが、鍼灸刺激が、脳内のアセチルコリンを増加させ、脳内血流を増加させる効果があるという研究もあります。

大脳皮質におけるコリン作動性血管拡張系:鍼治療と老化の影響」※3

「頬および四肢(特に前肢・後肢)への鍼 or 灸刺激が、体性求心性神経(Ⅲ,Ⅳ群)を介し、脳内のマイネルト基底核に作用し、コリン作動性の血管拡張系を活性化する」とあります。
ラットでの研究ではありますが、老齢ラットでもその効果は見られています。
認知症を発症した高齢者にとっても、期待できる結果ではないでしょうか。

 

そして、現代病とも呼ばれる糖尿病です。

糖尿病患者における脳血管性認知症発症の相対危険度は2倍、アルツハイマー病の危険度も1.9倍、中でもインスリン治療を受けている糖尿病患者ではその危険度が約4倍にまで上昇するという結果が出ています。(Rotterdam Study)
日本の久山町調査でも、脳血管性、アルツハイマー病、どちらも2倍近くの危険度が報告されています。

糖尿病と認知症の関係は完全には解明されていません。
しかし、糖尿病による合併症の多くが血管障害であることから、高血圧と同様、脳内の循環障害も十分考えられます。
また、インスリン分解酵素にアミロイドβの分解作用があることや、インスリン抵抗性により脳内での糖代謝に変化が起こることも言われています。
インスリン抵抗性改善薬や、脳内へのインスリン移行が顕著な点鼻インスリン療法が、効果をあげているそうです。
アルツハイマー病は、脳で起こる糖尿病なのではないかとも考えられており、「3型糖尿病」と呼んだり、「脳型糖尿病」として認識もされているそうです。※4

この糖尿病に対しても、鍼灸治療にできることがあります。
血管拡張作用による合併症対策、膵臓反応点にも直接アプローチします。

高血圧、糖尿病といった疾患への対策をする観点からも、鍼灸治療は、認知症に対して大いに役立ってくれそうです。

 

では、その認知症患者に対する鍼灸治療の研究はないのでしょうか?

中国の文献ですが、ありました。

アルツハイマー病患者の鍼治療の有効性と安全性:ランダム化比較試験の系統的レビューとメタ分析」※5

(・「ランダム化比較試験」(RCT)
=2つの群(治療群(治療を行う群)と対照群(治療をせず観察のみの群))に分ける際に無作為に分けている研究。
・「系統的レビュー」
=文献をくまなく調査し、RCTのような質の高い研究のデータを、データの偏り(バイアス)を限りなく除き、分析を行うこと。
・「メタ分析」
=「分析の分析」を意味し、統計的分析のなされた複数の研究を収集し、それらを統合したり比較したりする分析研究法。)

つまりは、いくつかの研究を分析に分析を重ねた結果、

・6つの試験結果から、鍼治療が薬物よりも優れていること(MMSEスコアの改善)が示された。
・3つの試験結果から、鍼治療とドネペジルの併用が、ドネペジル単独より有効であること(MMSEスコアの改善)が示された。

ということらしいです。
全て中国国内の研究で、対象年齢や治療期間のバラつき、それぞれの治療や研究を検証したわけではないので、何とも言えませんが…
(治療点(ツボ)は、百会、足三里が最もよく使われ、他、血海や頭皮のツボなど。)

 

前述した日本での研究と併せても、鍼灸(刺激)が、認知症に対して何らかの好影響を与えてくれそうです。

では、当院での実際の認知症患者さんへの鍼灸治療の効果はというと、
それはまた後日に。

(しばらく続けます)

 

※1 A Comparison of the Prevalence of Dementia in the United States in 2000 and 2012
KM Langa, et al. JAMA Intern Med 2017;177: 51-8.

※2 A two-decade comparison of prevalence of dementia in individuals aged 65 years and older from three geographical areas of England: results of the Cognitive Function and Ageing Study I and II
FE Matthews,et al. Lancet 2013;382:1405-12.

※3 Cholinergic vasodilative system in the cerebral cortex: effects of acupuncture and aging.
Uchida S. J Acupunct Meridian Stud. 2014 Aug;7(4):173-9.

※4 糖尿病合併症としてのアルツハイマー病

※5 The effectiveness and safety of acupuncture for patients with Alzheimer disease: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.
Zhou J, Peng W, Xu M, Li W, Liu Z. Medicine (Baltimore). 2015 Jun;94(22):e933.

 

H28年の国民生活基礎調査

先週6/27、厚生労働省より、昨年平成28年の国民生活基礎調査が発表になりました。

厚生労働省
平成28年 国民生活基礎調査の概況

今回の発表は、昨年の熊本地震の影響で、熊本県のデータは入っていません。
その中でも気になるのは、やはり「Ⅳ介護の状況」です。

介護者の高齢化が進んでいます。
いわゆる老々介護の増加です。
ともに65歳以上が54.7%、75歳以上の組み合わせも30.2%と、過去最高となっています。

お互いに相手の為に何かできることがあるというのは、とてもいいことだと思います。

ただ、「同居の主な介護者の悩みやストレスの状況」に、「ある」としたのが68.9%、その原因が「家族の病気や介護」というのが男女ともに7割以上というのは、やはり負担になっているとは言わざるを得ない状況です。
介護される側、する側の両方のケアが必要になってくるのでしょう。

それと、今までの調査と順位が入れ替わったものがあります。
要介護原因、つまり介護が必要となった主たる原因です。
「認知症」が、初めての1位となりました。(18.0%)
(2位は「脳血管疾患」、3位は「高齢による衰弱」。)

認知症の最大の原因は、「加齢」と言われます。
しかし、100歳を超えても、頭のしっかりした方もおられます。
そして、欧米では、高齢化が進んでいても、認知症の発生率や罹患率が下がっている報告もあります。※

年だからとあきらめなければいけないものでもなさそうです。
しかし、脳の変化は何十年も前に始まることが知られています。
もの忘れがひどくなる前からの「認知症予防」が今後のテーマとなってくるのでしょう。
しかし、認知症の方への鍼灸治療でも、良い効果が見られています。

そんなことも踏まえて、来週の反応点治療研究会の勉強会では、「認知症」をテーマに発表します。
鍼灸師にもできることが大いにありそうです。
 
 
※ Dementia in western Europe: epidemiological evidence and implications for policy making.
Wu YT et al. Lancet Neurol. 2016 Jan;15(1):116-24.

※ Preventing Cognitive Decline and Dementia: A Way Forward
the National Academy of Sciences. June 22, 2017
 

妊娠初期の鍼灸治療

「妊娠中は安定期に入るまで、鍼灸は受けてはいけない」

よく聞く話です。調べる限りそう言われることの発端は、鍼灸の古典にあるようです。有名な「三陰交」というツボは、「妊娠初期は堕胎(流産)させるツボ、安定期以降には安産のツボ」とされています。そんなことはあるのでしょうか?

胎児の染色体異常、人受精卵の免疫の脆弱性などから、「妊娠初期は流産する確率は高い」と今はわかっています。ところが、昔の治療は、経験則(自然観察)によるものです。妊婦さんを同じように鍼灸治療していても、初期には流産になりやすく、安定期以降は流産になりにくくなります。そういった経験から、同じツボであっても、「初期に治療すると流産に」、「安定期以降に治療すると安産に」となります。その前者の部分が取り上げられ、「妊娠初期は治療してはいけない」となったのでしょうか。

実際、妊婦さんの施術をしていても、三陰交のツボと呼ばれるあたりには反応点が見られます。それは、腓腹筋やヒラメ筋の反応点であって、妊婦さんに足のむくみやこむら返りが多いことからも、昔から治療点としたかったことも想像ができます。

最近の研究論文を調べてみても、妊娠初期の鍼灸治療が危険という所見は見つけられません。むしろ、それを否定する文献ばかりにあたります。※1

妊娠初期は、つわりや身体の変化などで、つらい時期でもあります。そういう時にこそ、何か対策をしてもらいたいでしょう。余計な心配をされることなく、安心して鍼灸治療を受けて頂きたいものです。

※1
The safety of obstetric acupuncture: forbidden points revisited
David John Carr
Acupunct Med 2015; 33 : 413-419 doi:10.1136/acupmed-2015-010936