認知症の鍼灸治療

私たちが所属する反応点治療研究会では、毎月の関西勉強会があります。
開業や勤務されている先生方が集まり、症例報告などが行なわれています。

今月は、私(院長)の担当で、認知症の治療について発表を行ないました。
良い治療効果が出ていることもあり、結構いろいろ調べもしました。
こちらでもまずはその「認知症に対する鍼灸治療」について、ご紹介します。

先日のブログでも投稿しましたが(「H28年の国民生活基礎調査」)、これからの高齢化社会を迎えるにあたり、認知症対策は他人ごとでは無くなってきています。

長生きするようになれば、認知症になるのは、しょうがないことでしょうか?
しかし、高齢化が進んでいる欧米では、認知症の有病率が減ったという研究結果も増えています。※1,2
その理由としては、生活習慣病の改善、教育水準の上昇などが言われています。
(途上国で糖尿病の増加率が著しく高いこともあります。)
統計からは何が要因かは明確にされませんが、対策ができるものではあるのでしょう。

また、脳の典型的な変化は何十年も前から始まることは言われています。
アルツハイマー病の原因としていられるアミロイドβなどの蓄積も40歳代頃から起こり始めると考えられています。
つまり、「予防」が一つのテーマとなっています。

 

その認知症発症の要因となっていると考えられているものに、高血圧と糖尿病があります。

高血圧は、動脈硬化を引き起こします。
脳内の血管の梗塞が、脳の働き、認知機能にも影響します。

継続して鍼灸治療をしていると、高かった血圧が低下していくことはよくあります。
(交感神経活動の抑制、末梢の血液循環の改善でしょうか。)

また、先月の鍼灸学会でも紹介されていましたが、鍼灸刺激が、脳内のアセチルコリンを増加させ、脳内血流を増加させる効果があるという研究もあります。

大脳皮質におけるコリン作動性血管拡張系:鍼治療と老化の影響」※3

「頬および四肢(特に前肢・後肢)への鍼 or 灸刺激が、体性求心性神経(Ⅲ,Ⅳ群)を介し、脳内のマイネルト基底核に作用し、コリン作動性の血管拡張系を活性化する」とあります。
ラットでの研究ではありますが、老齢ラットでもその効果は見られています。
認知症を発症した高齢者にとっても、期待できる結果ではないでしょうか。

 

そして、現代病とも呼ばれる糖尿病です。

糖尿病患者における脳血管性認知症発症の相対危険度は2倍、アルツハイマー病の危険度も1.9倍、中でもインスリン治療を受けている糖尿病患者ではその危険度が約4倍にまで上昇するという結果が出ています。(Rotterdam Study)
日本の久山町調査でも、脳血管性、アルツハイマー病、どちらも2倍近くの危険度が報告されています。

糖尿病と認知症の関係は完全には解明されていません。
しかし、糖尿病による合併症の多くが血管障害であることから、高血圧と同様、脳内の循環障害も十分考えられます。
また、インスリン分解酵素にアミロイドβの分解作用があることや、インスリン抵抗性により脳内での糖代謝に変化が起こることも言われています。
インスリン抵抗性改善薬や、脳内へのインスリン移行が顕著な点鼻インスリン療法が、効果をあげているそうです。
アルツハイマー病は、脳で起こる糖尿病なのではないかとも考えられており、「3型糖尿病」と呼んだり、「脳型糖尿病」として認識もされているそうです。※4

この糖尿病に対しても、鍼灸治療にできることがあります。
血管拡張作用による合併症対策、膵臓反応点にも直接アプローチします。

高血圧、糖尿病といった疾患への対策をする観点からも、鍼灸治療は、認知症に対して大いに役立ってくれそうです。

 

では、その認知症患者に対する鍼灸治療の研究はないのでしょうか?

中国の文献ですが、ありました。

アルツハイマー病患者の鍼治療の有効性と安全性:ランダム化比較試験の系統的レビューとメタ分析」※5

(・「ランダム化比較試験」(RCT)
=2つの群(治療群(治療を行う群)と対照群(治療をせず観察のみの群))に分ける際に無作為に分けている研究。
・「系統的レビュー」
=文献をくまなく調査し、RCTのような質の高い研究のデータを、データの偏り(バイアス)を限りなく除き、分析を行うこと。
・「メタ分析」
=「分析の分析」を意味し、統計的分析のなされた複数の研究を収集し、それらを統合したり比較したりする分析研究法。)

つまりは、いくつかの研究を分析に分析を重ねた結果、

・6つの試験結果から、鍼治療が薬物よりも優れていること(MMSEスコアの改善)が示された。
・3つの試験結果から、鍼治療とドネペジルの併用が、ドネペジル単独より有効であること(MMSEスコアの改善)が示された。

ということらしいです。
全て中国国内の研究で、対象年齢や治療期間のバラつき、それぞれの治療や研究を検証したわけではないので、何とも言えませんが…
(治療点(ツボ)は、百会、足三里が最もよく使われ、他、血海や頭皮のツボなど。)

 

前述した日本での研究と併せても、鍼灸(刺激)が、認知症に対して何らかの好影響を与えてくれそうです。

では、当院での実際の認知症患者さんへの鍼灸治療の効果はというと、
それはまた後日に。

(しばらく続けます)

 

※1 A Comparison of the Prevalence of Dementia in the United States in 2000 and 2012
KM Langa, et al. JAMA Intern Med 2017;177: 51-8.

※2 A two-decade comparison of prevalence of dementia in individuals aged 65 years and older from three geographical areas of England: results of the Cognitive Function and Ageing Study I and II
FE Matthews,et al. Lancet 2013;382:1405-12.

※3 Cholinergic vasodilative system in the cerebral cortex: effects of acupuncture and aging.
Uchida S. J Acupunct Meridian Stud. 2014 Aug;7(4):173-9.

※4 糖尿病合併症としてのアルツハイマー病

※5 The effectiveness and safety of acupuncture for patients with Alzheimer disease: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.
Zhou J, Peng W, Xu M, Li W, Liu Z. Medicine (Baltimore). 2015 Jun;94(22):e933.